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予防医学の力で「防ぎ得た後悔」をなくす。 パーソナルドクターという新たな医療インフラの構築

SAMURAI CEO2026

株式会社ウェルネス
代表取締役・医師

中田 航太郎

東京医科歯科大学(現・東京科学大学)医学部医学科卒業。救急総合診療科医として勤務中、予防医学の重要性を痛感し、2018年に株式会社ウェルネスを創業。病気になってから治療するのではなく、健康なうちから介入するパーソナルドクターサービスを展開。科学的根拠に基づいた予防医療を提供し、経営者や著名人など多忙な層を中心に支持を集める。「防ぎ得た後悔をなくす」をビジョンに掲げ、医療データのプラットフォーム化や、個人の健康を長期的に支えるインフラづくりに邁進している。

「もっと早く会いたかった」救急現場での無力感が、予防医療への挑戦の原点

私は4歳から医師を目指し、東京医科歯科大学(現・東京科学大学)卒業後、救急総合診療科医として現場に立ちました。そこで痛感したのは「病院で待つ医療」の限界です。

現在の医療は症状が出てから来院する仕組みですが、それでは手遅れなことも少なくありません。「体調が悪くないのに通院する」文化がない日本で、元気なうちに介入して病気を防ぐには、病院ではなく起業の形が必要だと考え、2018年に株式会社ウェルネスを創業しました。

起業の大きなきっかけは、研修医時代に出会ったある経営者の方とのエピソードです。病院嫌いだったその方は、がんのステージ4で搬送され、闘病の末に亡くなりました。しかし、亡くなる直前にこう言われたのです。「君みたいな医者にもう5年、10年早く会えていたら、私はもっと長く生きられたかもしれない」。

この言葉で、よい医師との出会いが人生を左右すると確信しました。病院嫌いの人ほど来院が遅れ、選択肢を失ってしまいます。だからこそ、元気な段階から信頼できる医師と体の管理をしていくことが重要です。この経験こそが、現在のパーソナルドクター事業の原点となっています。

治療から予防へ。経営者の健康を「戦略」として支える

弊社のメイン事業であるパーソナルドクターは、治療ではなく健康維持と予防を目的とした、専属医を持つサブスクリプションサービスです。

主な対象は、自身が倒れたときの損失コストが大きい経営者や専門職の方々です。年2回のメディカルチェックと3ヶ月ごとの面談を通じ、強制的に自分の体と向き合う機会をつくります。一般的な健康診断とは異なり、個人のリスクに合わせて検査をカスタマイズし、病気の早期発見率を高めるのが特徴です。

強みは「データ活用」と「中立性」です。独自システムで生活データや過去の健診結果、家族歴を一元管理し、その経年変化から将来のリスクを予測して戦略的な対策を立案します。また、自社でクリニックを持たないため、特定の検査や治療を売り込むといったバイアスは一切ありません。中立的な立場から、その方に最適な医療機関や専門医を選定・紹介できます。

さらに、約40名の医師を組織化している点も大きな特徴です。個人の医師では難しい、チームとしての質の高いマネジメントを実現しています。テクノロジーによるデータ管理と、医師の組織化という両輪を備えていることが、他社にはない私たちの強みです。

「すべての人に」は誰にも届かない。失敗から学んだ「一点集中」の重要性

創業当初は「すべての人を助けたい」という思いが強く、ターゲットを絞らずにサービスを展開していました。しかし、これが大きな壁となったのです。「すべての人にいい」とうたう商品は、結局のところ誰にも刺さらないという現実を突きつけられました。

医療ビジネスにおいては、「一部の人だけのサービスではないか」という批判を受けることもあります。しかし、実際に市場にプロダクトを出していく中で、経営者向け、企業向け、個人事業主向けといったように、明確にターゲットを切り分けて設計しなければ、価値は伝わらないのだと痛感しました。

また、事業が少し軌道に乗り始めたころ、新しいことに手を出してリソースが分散し、どちらも停滞するという失敗も経験しました。組織が盤石になるまでは、リソースの集中を決めることが経営戦略として極めて重要です。この経験から、あれこれと手を広げるのではなく、やるべきことを絞り込み、確実に実行していくことの大切さを学びました。

経営スタイルについても、自分ですべてをやるスタイルから、組織で動くスタイルへと変化してきました。創業時の「防ぎ得た後悔をなくす」というビジョンやミッションは変わりませんが、それを実現するための手段として、戦略やファイナンスといった経営者本来の仕事に時間を使えるようになってきたと感じます。

「健康の総合商社」として。行動変容を促すソリューションを実装

今後は、パーソナルドクターによるアドバイスにとどまらず、そのアドバイスを実行するためのソリューションまでを自社で提供していきたいと考えています。現在は、いわば模擬試験とその解説を行っている状態ですが、きちんと勉強するところまでサポートするイメージです。自分の体の強みや弱みがわかっても、実際に食事改善や運動を継続しなければ健康にはなれません。

来年は、店舗や物販事業にも進出する予定です。データに基づき、運動が必要とわかった方にフィットネスジムを提供したり、不足している栄養素を補うためのサプリメントを開発したりと、具体的な解決策までを一気通貫でサポートする体制を整えたいと思っています。目指すのは、健康の総合商社のような存在です。

また、医療業界全体が抱える課題に対しても、アプローチを続けていきます。日本は国民皆保険制度のおかげで医療費が安く抑えられていますが、その結果「病気になったら病院に行けばいい」という意識が根付いており、予防が軽視されがちです。人口減少の中で医療費が増大し続ける今、予防に取り組む人が報われる社会に変えていかなければなりません。

私たちのサービスは、医師の働き方改革にもつながると考えています。医師の供給が増え、人口が減っていく未来では、病院で働くだけでは生き残れない時代が来るでしょう。パーソナルドクターという新たな医師の役割と市場をつくることで、医療従事者の可能性も広げていきたいと考えています。

社会の「なぜ」を問い続けよう。人の命を救う、ダイナミックな挑戦を

これから社会に出る学生の皆さんには、若いうちにどんどんチャレンジしてほしいと思います。年齢を重ねると、失敗したときに失うものが増えるため、どうしても行動力が落ちてしまいます。面白いと感じるものを見つけたら、恐れずに飛び込んでみてください。

また、世の中の「当たり前」に対して、「なぜ?」と問い続ける姿勢を持ってほしいです。たとえば、医療現場ではいまだにファックスが使われていますが、若い皆さんから見れば不思議な光景でしょう。「昔からの慣習だから」と流すのではなく、「今の時代ならこうしたほうが合理的だ」という視点を持つこと。そこにこそ、大きなイノベーションの種が眠っているのです。

弊社には、私たちのサービスが人の命を救っているという確かな実感があります。先日も、コンシェルジュチームが多忙なクライアントに検査を強く勧め、その結果がんが早期発見され、「あと2週間遅れていたら手遅れだった」という事例がありました。私たちの仕事が、誰かの人生を救い、長く生きる手助けになる。これほどやりがいのある仕事はありません。

私たちは、巨大な医療マーケットを治療中心から予防中心へと変革しようとしています。このダイナミックな動きの中で、社会的意義を感じながら、エンターテインメントのようにワクワクする仕事ができる。そんな環境で、自身のキャリアを築きたいという方とお会いできることを楽しみにしています。